普段の生活とは違う特別な場所と期間に影響を受けること。それがアーティスト・イン・レジデンスってものだろ?」いつもの得意の屋外パーフォマンスのアイデアを待ち望んでいた周囲を牽制するようにダニエルは言った。そして「このアーカス・スタジオに始めて足を踏み入れたとき、美術大学生時代を思い出した。ひさびさに室内(スタジオ)にこもって、何かモノをつくってみるのも悪くないかもしれない」と続けた。「確かに自分の制作場所といえば、常に屋外だけど。それはもう少し後のお楽しみ」。
アーカス・スタジオが拠を構える「守谷学びの里」には市民が借りる事のできる陶芸アトリエがある。スタジオのすぐそばにあった陶芸がなんとなく、気になっていた。「よし、ひさしぶりにやってみるか、と思い立ってからの行動は早かった。ホームセンターでインスピレーションで選んだ黒御影など陶芸用粘土を購入。でも制作するものはあくまで今月カナダに出展するプロジェクトに関連する小さな彫刻。渾身の一作、というものではない。一週間ばかりでやってしまおう、という心持ちだ。それは、小さな形をした家族や人々がフェンスを倒壊させる模様を表している。シェイプ作りはスームスにいったけれど、問題は「焼き」。それにいたっては素人同然だということ。行程がどういったものか、どれくらいの期間を要するのか、あまりわかっていなかった。重ねて不運にも、陶芸アトリエは予約でいっぱい。頼みのホームセンターの陶芸サービスも間に合いそうになかった。カナダに出発するのは、数日後。それまでに焼いてしまわないといけない。気持ちが焦る。出発まで時間がない。新米サポートスタッフである僕(杉山)も頭を抱える。しかし、ここはたびたび地域交流を見せてくれるアーカス・プロジェクト。地元住民のかたつむりさん(ボランティア)であり、陶芸家でもある、あさくらさんが協力に手を挙げてくれた。そのご好意に甘えつつ、アドバイスを頂きながら、あさくらさん所有の釜で焼かせて頂いた。緊張感と期待感を胸に釜の扉をゆっくりと開ける。素焼きの具合は良好。釜から出て来た小さな彫刻は、釉薬を掛けていないので、見た目は正直なところ釜に入れる前と変わらない。それでも、「Good」と何度もささやきながら、そっと釜から手にとるダニエルの顔は工作に出会ったばかりの少年のようだった。
あさくらさんの釜場を後にするとき、あさくらさんが「Good luck」と笑顔で幸運を祈ってくれた。運転手席のバックミラー越しに、手を振りあうダニエルとあさくらさんと、だんだん遠く小さくなってゆく釜場に目をやりながら、これぞ地域振興、交流型のアーティスト・イン・レジデンスなんだな、と僕は勝ってにうなづきつつ、出会いの余韻に浸りすぎないようにアーカス・スタジオへと一気にハンドルを切った。その彫刻をダニエルは大事に、大事に抱えながら、今日ついにカナダへと発つ。二週間ばかりスタジオを離れるダニエルの顔が、未踏の地であるカナダに出展前だというのに、なんだかすこし寂しそうに僕の目には映った。
いってらっしゃい、ダニエル。スタッフ一同、出展の無事と成功をお祈りしながら帰りを待っています。ここでつくりあげた作品で、アーカスの名をカナダに轟かせてください!

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